「わかりません」にどう対処するか
授業をやっていれば生徒を指名する場面が出てくる。
こちらが期待した正解、あるいは誤りであっても学習が深まりそうな回答、的外れだとしても少なくとも何らかの回答が返ってくればいいが、そうでない場合もある。
つまり無回答、あるいは「わかりません」と言われた場合である。特に経験の浅い教員ほど、どう対処するか気を揉むところであろう。
さて、この「わかりません」に対するその後の教員の動きにはいくつかの選択肢があるが、これは「問いの性質」と「他の生徒の理解度」による。結論から言うと、教員の対処は以下の3種類である。
1 教員が答えを言い、次に進む
2 次の生徒を指名する
3 教員がヒントを出し、その生徒の回答を促す
「1 教員が答えを言い、次に進む」のは、比較的平易またはシンプルな問いで、他の生徒半数くらいが正解をわかっているだろうという場合である。この場合、当該生徒の「わかりません」は、本当はわかっているのだが自信がないだけであると想定される。
つまり、もう少し催促すれば回答する可能性はあるのだが、回答までにどれだけ時間がかかるかわからないことに加え、他の生徒もほとんどがわかっているだろう答えに時間をかけるのは学習効率がよくない。そこで、早々に見切りをつけて次の問いに進めば授業テンポを失わずに済む。
「2 次の生徒を指名する」ことを前述の「1」の前に取り入れても良い。複数人指名して同じ状況ならば改めて1の手法を取ることもできるからだ。少人数クラスでは、回答できなければ次々と指名をしていくと1時間で2周以上指名をすることができ、緊張感を保てると同時に、生徒にも複数回のチャンスを与えることができて効果的である。
「3 教員がヒントを出し、その生徒の回答を促す」のは「1」とは逆の状況で、他の生徒も大多数が理解できていないか自信がない、あるいは複数の正解が考えられる場合である。
この場合、教員がヒントを出すことは当該生徒のためだけでなく、その他の生徒へのヒントにもなっているのである。
こうした後に改めて回答を促し、それでも答えられなければ次の生徒を指名しても良い。この場合、指名によって時間をかけることは授業テンポを損ねる行動ではなく、教師の助け無しでは回答できなかった生徒たちに対し思考する補助と猶予を与えることになる。StorchやSwainらが提唱するscaffoldingである。
指名によって授業のリズムが損なわれ、正解がわかっている生徒が退屈そうにしているのは、「問いの性質」と「他の生徒の理解度」にかかわらず「3」の対処法を取っているからである。生徒が答えないのは本当にわからないからではなく、答えたくないからなのだ。
しかし、「1」や「2」のような対応をしていると、「それでは答えない生徒がずっと答えないままになり、学習に対して後ろ向きになってしまう」という反論を受けるかもしれない。
ただ、その反論は「生徒にとって答えないで済むのは得である」という考えに基づいている。私の考えは逆で、授業というある種社会的な、緊張感のある場面で、恥をかくかもしれない恐怖感の中、回答をするというのはなかなか得難い成長の機会であると思っている。
つまり、その機会を見す見す逃してしまうこと自体がすでにその生徒にとって損であり、さらに回答を促したりして傷口をえぐることもないだろう。さっさと次の機会を与えた方が良い。
指名は大切な技術である。教員は生徒の理解度を把握し、緊張感を生み出すことができる。ただし、それが授業のリズムやテンポの犠牲の上に成り立つようではいけない。作業も思考もしていないその他の生徒はふと冷静になる。生徒が授業を退屈に感じる(あるいはそう思い出す)きっかけはあらゆるところに潜んでいる。
コメント
コメントを投稿